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大阪地方裁判所 昭和46年(行ウ)17号 判決

枚方市藤田町三番八

原告

田中治

右訴訟代理人弁護士

姫野敬輔

北川敏夫

松枝述良

藤井宏

同市大垣内町二丁目九の九

被告

枚方税務署長 藤岡誓

右指定代理人

細井淳久

牛居秀雄

米田一郎

秋本靖

中谷透

鬼束美彦

主文

原告の昭和四六年(行ウ)第一七号事件及び昭和四七年(行ウ)第三一号事件における各請求をいずれも棄却する。

右各事件の訴訟費用はいずれも原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立及び主張

(昭和四六年(行ウ)第一七号事件)

一  請求の趣旨

(一)  被告が原告に対し昭和四五年二月九日付でなした原告の昭和四三年分所得税及び無申告加算税に関する決定中、所得税額につき四八万一、八〇〇円、無申告加算税につき四万八、一〇〇円を超える部分はいずれもこれを取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

三  請求原因

(一)  原告はもと別紙物件目録記載の土地(以下本件土地という)を所有していたが、登記簿上は昭和四三年七月三一日付売買を原因として原告から池川稔にその所有権移転登記がなされている。

(二)  被告は原告の昭和四三年分の所得税に関し、右売買についての調査に基づき、昭和四四年一〇月二九日別表決定欄記載のとおり所得税の決定(以下原決定という)を、昭和四五年二月九日原告の異議申立に対し別表異議申立についての決定欄記載のとおりの決定をそれぞれなし、右は同年一二月二六日付審査請求についての裁決によって一部取消され、別表同裁決欄記載のとおりとなった。

(三)  しかし、被告の昭和四五年二月九日付決定は次の理由により誤っており、違法である。

すなわち、本件土地の売却代金は五〇〇万円であり、これより取得価額一七〇万円及び売買についての仲介人二名に支払った手数料五〇万円(各二五万円宛)合計二二〇万円を控除すると、譲渡所得金額は二八〇万円となる。そして、右金額から別表記載の各控除額合計六二万五、〇〇〇円を控除した二一七万五、〇〇〇円が課税所得金額であり、その所得税額は、四八万一、八〇〇円、無申告加算税額は四万八、一〇〇円である。

(四)  よって、原告は被告に対し、前記決定中右各税額を超える部分の取消を求める。

四  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因第一、二項は認める。

(二)  同第三項中、本件土地の取得価額、売買の費用及び別表記載の各控除額がいずれも原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認する。

(三)  原告は本訴において昭和四五年二月九日付決定(原決定に対する原告の異議申立についての決定)の取消を求めているものであるところ、昭和四四年一〇月二九日付の原決定についしの瑕疵を主張するのみであって、裁決固有の瑕疵を主張していないから、行政事件訴訟法一〇条二項、三条三項により主張自体失当である。

(昭和四七年(行ウ)第三一号事件)

一  請求の趣旨

(一)  被告が原告に対し昭和四四年一〇月二九日付でなした原告の昭和四三年分所得税及び無申告加算税に関する決定(但し、異議決定及び裁決によって一部取消されたのちのもの)中、所得税額につき四八万一、八〇〇円、無申告加算税につき四万八、一〇〇円を超える部分はいずれもこれを取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

三、請求原因

昭和四六年(行ウ)第一七号事件の請求原因第二項を左のとおり変更するほか、同事件の請求原因と同一である。

(二) 被告は原告の昭和四三年分の所得税に関し、右売買についての調査に基づき、昭和四四年一〇月二九日別表決定欄記載のとおり原決定をなし、右は昭和四五年二月九日付異議申立についての決定により別表同決定欄記載のとおりとなり、さらに、右は同年一二月二六日付審査請求についての裁決により一部取消され、別表同裁決欄記載のとおりとなった(以下本件課税処分という)。

四  請求原因に対する答弁及び主張

(一)  請求原因第一、二項は認める。同三項については、昭和四六年(行ウ)第一七号事件の答弁と同一である。

(二)  主張

1 本件課税処分の経緯は別表のとおりである。

2 本件原決定(但し、前記異議決定及び裁決で一部取消されたのちのもの)の適法性

原告は昭和四三年四月一九日本件土地を池川稔に対し代金一、九三二万円で売渡した。右譲渡にかかる譲渡所得の内訳は次のとおりである。

(1) 譲渡収入金額 一、九三二万円

(2) 譲渡資金の取得価額及び譲渡に関する経費 二二〇万円

(3) 譲渡所得金額 一、七一二万円

(4) 特別控除額 三〇万円

(5) 課税譲渡所得金額 八四一万円

なお、本件土地の買主池川は原告に対し売買代金として合計二、〇一二万円を支払ったが、右代金中には本件土地の売買時に荻原熊吉が原告の仲介によって池川に売却した他の土地代金八〇万円が含まれていたので、これを控除すると本件土地の売買代金は一、九三二万円となる。

したがって、本件原決定は適法である。

五  被告の主張に対する原告の答弁及び反論

(一)  被告の主張中、本件課税処分の経緯及び池川が原告に本件土地の売買に関して合計一、九三二万円を支払ったことは認めるが、本件土地の売買代金額は否認する。

(二)  本件土地売買の経緯は次のとおりである。

1 原告は昭和三八年頃、株式会社かつらぎ商事(以下かつらぎ商事という)の営業責任者吉葉から、かつらぎ商事が株式会社片山鉄工所(以下片山鉄工所という)から借受けている融資金の保全状況を糊塗するため、本件土地に架空の抵当権を設定して債権保全の状況を作出することを依頼されたので、原告は当時かつらぎ商事に対しては全く債務を負担していなかったが、吉葉との個人的事情もあって右申出を承諾し、本件土地に債権額二、〇〇〇万円の架空の抵当権を設定し、昭和三八年八月二日その旨の登記を経たところが、昭和四三年三月頃、かつらぎ商事は原告に対し右二、〇〇〇万円の債権の存在を主張するに至り、その弁済を迫った。

2 ところで、その頃太田鎮大から原告に対し、五〇〇万円を支払うから本件土地の処分権を譲渡してほしい旨の申入があり、昭和四三年三月八日原告、右太田及び大野二郎間で次のような契約が成立した。

(1) 大野二郎が本件土地についての抵当債務を支払い、かつらぎ商事及び南勝の債権の譲渡を受けること。

(2) 原告は、本件土地の売買代金から大野が支払った金額を控除した残額の支払を受けること。

(3) 本件土地の処分権は太田に委任すること。

そして、原告は太田から売買代金として五〇〇万円を受領した。

3 したがって、本件土地が池川に一、九三二万円で売渡されているとしても、右五〇〇万円を除く一、四三二万円については、大野二郎が本件土地についての売買あっせん報酬として七三〇万円を、かつらぎ商事等が抵当権名義抹消のための経費等として残額を、それぞれ収受したものである。

六  原告の反論に対する被告の再反論

本件土地につきかつらぎ商事のために抵当権設定登記がなされていることは認めるが、その余は否認する。

(一)  原告は昭和三六年頃、かつらぎ商事から片山鉄工所のために枚方市大字茄子作一帯の土地の買収売渡を受任し、その買収売渡代金合計七、五四五万四、五〇〇円のうち、手付金及び内金として合計六、七八九万〇、九〇〇円を受領したのであるが、そのうち原告がその後実際に買収を完了した部分につき要した金額は合計四、六九五万四、五〇〇円であったところ、結局、原告は当初予定の面積の買収売渡を完成しなかった。

そこで、かっらぎ商事は片山鉄工所に対し、原告が買収した範囲の当初予定外の土地を他に売却処分し、その代金をもって交野町の代替地を買収売渡す旨を約したが、原告はかっらぎ商事に対し、既に受領した前記合計六、七八九万〇、九〇〇円のうち、実際に要した前記合計四、六九五万四、五〇〇円の残金約二、〇〇〇万円を返還又は賠償すべき債務を負うに至り、その担保として本件土地に抵当権を設定したものである。

(二)  原告は本件土地につき池川稔との間に、自ら代金を一、九三二万円と定めて売買契約を締結しており、しかも原告は一旦は右代金の金額を自ら受領している。

(三)  また、大野二郎はかつらぎ商事から原告に対する二、〇〇〇万円の抵当権付債権を譲受けていたのであるから、原告が大野に対して右抵当権名義抹消のために一、四三二万円を支払ったことは自己の債務の弁済であり、自己の所得の費消であるに過ぎず、したがって、同金額は本件土地の譲渡に要した費用にも該当しない。

第二証拠

当事者双方の証拠の提出、援用、認否等は本件記録中の証拠関係目録記載のとおりである。

理由

第一昭和四六年(行ウ)第一七号事件について

原告は本訴において、被告が昭和四五年二月九日付でなした原告の昭和四三年分所得税及び無申告加算税に関する異議申立についての決定の一部取消を求めているものであるところ、右決定がなされたことは当事者間に争いがないが、行政事件訴訟法一〇条二項、三条三項によれば、裁決の取消しの訴えにおいては、原処分の違法を理由として取消しを求めることができないところ、原告は昭和四四年一〇月二九日付でなされた原決定についての瑕疵を主張するのみであって、裁決固有の瑕疵を主張するものではないから、主張自体失当といわなければならず、原告の本訴請求は理由がない。

第二昭和四七年(行ウ)第三一号事件について

一  原告はもと本件土地を所有していたが、登記簿上は昭和四三年七月三一日付売買を原因として池川稔にその所有権移転登記がなされていること、被告が原告の昭和四三年分の所得税に関し、右売買についての調査に基づき、別表記載のとおり本件課税処分をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、以下本件原決定(但し、異議決定及び裁決によって一部取消されたのちのもの)の適法性につき判断する。

(一)  まず、本件土地につきかつらぎ商事のために抵当権設定登記がなされた経緯につき検討するに、右登記がなされていることは当事者間に争いがなく、いずれも成立に争いのない乙第二ないし第六号証、原本の存在及び成立について争いのない乙第七号証の三、原本の存在及び本文末尾三行を除く部分については成立に争いなく、右末尾三行部分については原告本人尋問の結果によって真正に成立したものと認められる乙第七号証の六、証人嶋村迅穂の証言及び原告本人尋問の結果(但し、後記信用しない部分を除く)によれば、次の事実が認められる。

原告は昭和三六年七月一五日、かつらぎ商事から片山鉄工所のために枚方市大字茄子作一帯の土地合計八、八七七坪を七、五四五万四、五〇〇円で買収売渡すことを受任し、その手付金及び内金として合計約六、五〇〇万円を受領して右土地の買収に当ったが、買収土地の価額の高騰等の事情から当初予定の面積全部については買収売渡が不能となったため、かつらぎ商事は片山鉄工所に対し、原告が既に買収した土地を他に売却処分し、その代金をもって交野町の代替地を買収売渡す旨約した。ところで、原告が実際に買収を完了した部分について要した費用は合計四、六九五万四、五〇〇円であったので、原告は既に受領していた約六、五〇〇万円から右金額を差し引いた残額約二、〇〇〇万円をかつらぎ商事に返還すべき債務を負うに至り、右債務担保のためかつらぎ商事に対し、本件土地につき債権額を二、〇〇〇万円とする抵当権を設定し、昭和三八年八月二日受付をもってその旨の登記を経由した。

右のとおり認められ、右認定に反する証人長江五三郎の証言及び原告本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らしてにわかに信用できず、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。

(二)  次に、本件土地の売買につき検討するに、池川稔が原告に対し本件土地の売買に関して合計一、九三二万円を支払ったことは当事者間に争いなく、前掲乙第二ないし第六号証、いずれも成立に争いのない乙第一号証、第九ないし第一三号証、原告本人尋問の結果及びこれによって真正に成立したものと認められる甲第一号証によれば、次の事実が認められる。

昭和四三年三月頃、原告の知人杉本忠一を通じ、太田鎮大から原告に対し、五〇〇万円を支払うから本件土地の処分権を譲渡してほしい旨の申入があり、同年三月八日、原告、右太田及び大野二郎間に次のような契約が成立した。

(1) 大野二郎が本件土地についての抵当債務を支払い、抵当債権者であるかつらぎ商事及び南勝の原告に対する債権の譲渡を受けること。

(2) 原告は、本件土地の売買代金から大野が支払った金額を控除した残額の支払を受けること。

(3) 本件土地の処分権は太田に委任すること。

そして、昭和四三年四月一九日原告と池川稔間において、本件土地につき代金を一、九三二万円とする売買契約が成立し、原告は一旦池川から売買代金として一、九三二万円を受領したが、前記契約にしたがい、かつらぎ商事らの債権譲受人である大野二郎に一、四三二万円を手交し、その残額五〇〇万円を原告が収受し、同年五月七日本件土地についての抵当権の抹消登記がなされた。

右のとおり認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(三)  以上認定の事実によれば、原告は本件土地を池川に売却するにあたり、本件土地についての抵当権設定登記を抹消するためにその抵当債務の弁済として一、四三二万円を支払ったものと認められる。これに対し、原告は、少くとも右のうち七三〇万円は大野が本件土地売買のあっせん仲介の報酬として受領したものである旨主張するが、原告本人尋問の結果によって真正に成立したものと認められる甲第二号証によっても右事実を認めるには十分ではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

(四)  してみると、原告が大野に一、四三二万円を支払ったことは自己の債務の弁済であって、自己の所得の費消に過ぎず、右金額は本件土地の譲渡に要した費用にも該当しないといわなければならない。したがって、譲渡所得金額を一、七一二万円、課税譲渡所得金額を八四一万円とする本件原決定(但し、異議決定及び裁決によって一部取消されたのちのもの)は適法である。

三  以上の次第であるから、本件原決定の一部取消を求める原告の請求は理由がない。

第三結論

よって、原告の昭和四六年(行ウ)第一七号事件及び昭和四七年(行ウ)第三一号事件における各請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 奥村正策 裁判官 辻中栄世 裁判官 山崎恒)

物件目録

大阪府北河内郡交野町大字私部一六一〇番地ノ五

一、田     五八一平方メートル

同所一六一一番地

一、田     四三九平方メートル

同所一六一一番地ノ一

一、田     一八六平方メートル

同所一六一二番地ノ三

一、田     二五四平方メートル

同所一六一二番地ノ四

一、田     七三〇平方メートル

別表

〈省略〉

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